ふしあわせという名の猫 浅川マキ/song by 樹根
ニャンタに初めて会ったのは、凍えそうな2月の早朝のアスファルトの上だった。
路地裏で震えていたのを覚えている。
いつか必ずお前の元にも暖かい春がやって来るよ。
「腹が減ってるのか?何か答えろよ・・・・・」
泣く分けでもなく、騒ぐ分けでもなくただ、着いて来るだけ。
野良猫というのは普通、人間を見ると逃げるもの。
だけどこの猫は例外である。
人なっつこい分けでもなさそうだ。相性の問題かも知れない。
この猫をしばらく見てるうちにある事に気がつく。
「何だお前眼が見えないのか?」
猫の眼は開いていない。
時々歩くと木や車にぶつかる。
目の前に手をかざしても反応がない。
ハンカチで眼を拭いても開く事はない。
お前は空の青さも知らないのか・・・・・
俺の知り合いの娘に盲目だった少女がいた。
だが無事、手術は成功し空の青さを感じる事が出来たのだ。
お前にも、いつか空の青さを見せてやりたい。
「この辺りの住民はうるさいから早く食えよ」
近くのコンビニで猫缶の差し入れをしてあげた。
すると一気に食べる。
よほどお腹が空いていたのであろう。
その盲目の猫に(ニャンタ)と言う名前をつけた。
ネーミングセンスはゼロである。
そのまんまの発想しか出来ない俺を悔やむ・・・・・。
それからその路地に行く度にニャンタは何処からともなく現れる。
何で見えないのに俺を認識出来るのか?
本当は眼が見えてるのか?
お前は役者なのか?
動物的な才能なのか?
家では事情があり飼う事は出来ない。
でも強く生きろ。
悪い奴も多いからな!!
猫さらいに連れて行かれるぞ・・・・
本当に悪い奴がいるからな!
俺の友達に猫さらいがいて、そいつに食われてしまうからな。
(久々の登場、リアル猫キラーマチェーテことアッキー)
何見てるんだよ!!
この野郎!!猫食ってなにが悪い?
(バカヤロ!!ワルも悪、大悪だよ)
この部分のみフィクションだから皆様、本気にしないでね。
やがて寒い冬は過ぎ、暖かな春がやって来た。
この時期は多忙だった為、あまりニャンタの元には行けなかったのである。
ある紫陽花が咲く初夏。
久々にニャンタを見かけた。
自分より一回り以上、小さな子猫を抱きかかえていた。
ずっと寄り沿い離れる事はない。
何だニャンタも親になったんだな。しかも今頃、気づいたがニャンタはメスだったのだな。今更、ニャンコなんて名前は付けないからな!お前はずっとニャンタのままだ
・・・・・・・・・
ニャンタはまだ生まれたばかりの子供とより沿い、
俺に気がつくとニッコリと微笑んだ。
眼が見えなくても幸せは掴めるのだ。
お前に暖かい春がやって来たのだ!!
もう独りじゃない・・・・・
それからもニャンタは暑い夏でも子猫と二人、俺の前に現れた。
2月に出会った頃より少し強くなった様にも見えた!
人も猫も、子供が出来たら強くなるんだな・・・・
自分が自分だけのものではなくなった証かも知れない!
やがて9月になり、ニャンタとジュニアの事が気がかりになり何度かその路地に足を運ぶがそれっきりニャンタを見る事はなかった・・・・
今頃どうしてる?
ジュニアと仲良く暮らしてるのか?
いい飼い主に拾われたか?
暖かい春に出会えたか?
10月に入ってまたその周辺に行くとある二人組の主婦の会話が聞こえて来る・・・・
「最近、猫見なくなったわね。随分と汚い猫だったわね」
「こないだ保健所が来てこの辺りの猫、皆、連れて行ったみたいだから平気ですよ」
黙れババア、ぶくぶく太りやがって・・・・・・・
こんなババア達を恨んでも仕方ない・・・・
ましてや保健所なんか恨んでも・・・・・
ただ無の俺の行動を恨むだけだ・・・・・・・・。
アスファルトに激しい雨が殴るつける。
台風18号を告げるニュースがただ静かに流れてる・・・・・
ニャンタとジュニアに暖かい春なんてやって来ないじゃないか・・・・・・
それでも雨は容赦なくアスファルトを殴り続ける・・・・・・・・・・。